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た。「バナナをありがとうと言ったよ、届けたバナナのお礼でしょう。はっきりとよくわかりました。とてもとても可愛らしい声ですよ、よかったね。大変嬉しかったです。ありがとう」。
あれは、いつのころのことだったか。テレビで聞こえない両親をもつ幼い女の子が、暮らしの中で、あれこれ通訳している姿を泣きながら見たことがある。人はみな、この世でそれぞれに重い荷を負って生きているという。息子夫婦も孫娘も、もう一つ重い荷を背負ってそれなりにたくましく、支え合って生きて行くことであろう。
息子は早くから親元を離れ、一人で過ごしたので、「誰にも頼れない、誰にも頼るまい」との思いが自信となって、彼を支えていると思う。
彼はほとんどが事後報告である。それでも自分勝手にしてしまったことを弁解するように必ず、「心配はいらないよ、無茶なことはしないから。わからないことがあったら相談するからそのときは頼みます」と頭を下げる。
私は理解しているつもりなのに、親馬鹿と言われる取り越し苦労をしてしまうことがある。
彼は、「僕を大人と認めないのか、バカにしている」と怒りを込めて抗議する。「そうではない、親なら誰でもが気をつかうことだから」といくら釈明しても、こちらの思いとは全く違う意味に受け止められてしまう。「どうしてわかってもらえないのか」ともどかしく、悲しくて幾度も泣いた。
やはり耳から入ってこない常識不足、情報不足が原因かも知れないと考えもした。これから

 

 

 

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